公開年2020年。ルーマニアのドキュメンタリー映画。
映画の冒頭シーンで、子供たちが湖でいかだを漕いで仲良く遊んでいたり、ブァリという年長の少年が湖で魚を釣っている。
都会における文明社会から遠く離れた、湖の近くの自然あふれる草原で暮らしているジプシーの家族がいた。
だが、行政の介入によって一家は都市への生活を余儀なくされる。だが、都市の住民ともめたりするなど、なかなかうまくなじむことができず、子供たちは、元の草原での生活に戻りたいと思うようになった。
映画の前半は、家族全員が自然の中で貧しくとも何とか助け合って、いつも一緒に仲良く暮らしている姿が、後半は、都市に移住してから便利な生活になったものの、都会の住人とのトラブルや都市生活に適応できない苦悩、そして離れ離れになっていく家族の姿が描かれている。
便利な都会か不自由だけど自然の美しさか。
近年、我が国で都会から田舎に移住する人が増加している。人気のいない山奥で小さな小屋を作って暮らすライフスタイルが流行しているのだ。都会に比べて生活コストがあまりかからないのが魅力的だ。だが、都会に比べて何かと不自由が多いのも事実だろう。近くにコンビニエンスストやショッピングモールは無論ない。それらの施設を利用するために、長時間かけて往復しないといけない。不便だが都会にはない美しい自然がある。
行政は悪者なのか。
一家を元の自然の生活から追い出したが、きれいな住宅を与えて快適な生活を提供したり、子供たちをしっかり学校にいかせるなどちゃんとした保護は行っている。
そこまで面倒を見て貰えているのに、行政に文句を言う家族の方がふてぶてしいのではと、思ってしまうことがあった。
まあ、複雑な事情が絡んでいるのでどちらか一方が悪いといった単純な話ではないのだろう。
ところでこの映画の主人公は誰か。私は、ブァリという年長の少年だと思っている。ブァリは一家の長男で弟たちの世話をよく見ている優しいお兄さんだ。だが、彼は15になるまで学校に行ってなかったので簡単な読み書きすらできなかった。都市の学校に通いだしてからそのことを恥ずかしく思うようになり、そんな自分を育てた父親や母親に次第に反抗するようになってくる。
ブァリはどんどん非行に走るようになり、弟たちとの関係がどんどん悪くなっていった。
そして映画のラストシーンで、かつて住んでいた自然の湖をこぎながら、弟たちと楽しくこの湖で遊んでいたことを思い出し、懐かしさと現状に対するやるせなさを覚えるのだった。
映し出される湖や自然、そこに住んでいる動物たちがとにかく美しい。