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萩津和野に消えた女

あいつが女に犯してしまった愚かな行為。その関係上絶対にしてはいけないものだった。
その行為が原因で、次々と殺人事件が発生。
あいつの候補として次々と浮上する、恋人の白井、レイプ犯とされる男たち。
否、この男たち以外に誰もが知る、恋人の日高以上に最も由美子と関係の深い人物がいて、捜査機関がまさか、いや信じたくないと思うような人物があいつだったのだ。
このあたりは、森村誠一人間の証明を連想させる。

 

中盤、過去に女性にレイプしたことがあるとして、若い男が自首してくる。

その男がレイプをしなければ、公開手配したモンタージュは作られず、それによく似た岡崎が殺害されることは無かった。岡崎の妹はそのことをどう思っているのか。そのことについて作中では一切表現無し。
また、自首したのは反省からではなく、殺されるのが怖かったからで、再犯のおそれがある。釈放すべきでないと思った。
現在レイプは厳罰化されていて、親告罪ではない。
十津川が冷酷だと亀井やマスコミから責められるシーンがある。マスコミは分かるが、亀井が十津川より犯人をかばうのは珍しい。それは亀井が十津川にはない犯人と同じ存在を持っていたからだ。だが、亀井がかばう程の価値がある犯人ではなかった。
マスコミが警察の十津川よりも、犯人の方を英雄として信用している点について、前回、十津川警部裏切りの感想などで書いたことと同じことを思った。


冷酷なのは、十津川ではなく犯人のあいつだ。あいつは自分の保身のために多数の何の罪もない人間の命を奪ったのだ。自分勝手でどうしょうもない。そんな人間がマスコミにより英雄とされているのを、十津川は冷酷非情だといわれる捜査をするぐらい許せなかった。
終盤、犯人が最期、自分の犯罪を暴露した遺書を残して自殺した。
作中でも書いているように、良心が芽生え、せめてもの罪滅ぼしからではなく、自分がいかにその存在を愛していたかを伝えたかったらしい。
だが、それは決して異常で間違った愛し方で、十津川が自分も同じ存在を持ったら同じような愛し方をしてしまうのではないかと苦悩するが、妻の直子が励ました発言はもっともだと思った。
なお、十津川が許せなかったのは犯人のみで、犯人の家族にはしっかりとした配慮を行っている。記者から質問責めにあいながら、家族がアメリカに旅立ってから遺書を公開したり。
小津安二郎の早春も、この作品で動機となった同じテーマを扱っているらしい。


 

不明点
匿名の手紙を警察に送ったのは誰だったのか。
ある男を睡眠薬で眠らせるのに失敗したと書かれている文章があり、由美子があいつを殺して守ろうとした存在は、実は襲われていたのではないかと思わせる書き方だ。